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東京高等裁判所 昭和25年(う)2360号 判決 1950年11月14日

被告人

斎藤薰

主文

本件控訴を棄却する。

当審の未決勾留日数中百二十日を本刑に算入する。

理由

弁護人青木三代松の控訴趣意第三点について。

(前略)論旨指摘のとおり、原審が前記第二回公判期日において決定した証人兵藤徳輔の証拠調を施行しなかつたこと、検事の公判期日外における検証並びに証人兵藤徳輔の尋問の請求に対し許否の決定をしなかつたこと、昭和二十五年一月二十一日施行された前記検証並びに証人尋問に関しては、訴訟関係人たる被告人等及び各弁護人に対し、その通知をしなかつたことは記録に徴して明白である。かように裁判所が公判期日において証拠調をすることを決定しながら、その決定どおりの証拠調を施行しないことは明らかに違法の措置であり、又、検証をするにあたつてこれを検察官、被告人及び弁護人等の訴訟関係人に対し通知をしなかつたことは、刑事訴訟法第百四十二條、第百十三條第一項、第二項に違背するものであり、裁判所外において公判期日外に証人を訊問するについて被告人及び弁護人の意見を聞かないでその決定をし、且つあらかじめこれら訴訟関係人に証人に対する尋問事項を知る機会を与えず、これを施行したことは、同法第百五十七條、第百五十八條、第二百八十一條の規定に違反する不当な処分であることまことに、所論のとおりである。故にかような裁判所の違法な処分によつて作成された前記検証調書並びに証人尋問調書は、同法第三百二十一條第二項の検証調書又は同條第一項第一号の裁判官の面前における供述を録取した書面としては無効のものといわなければならない。しかし右検証調書は原審裁判官が検察官、被告人の弁護人及び被害者兵藤徳輔の三名立会の上同被害者の居宅並びにその附近を検証し、その結果を裁判所書記官補をして記載させ、裁判官がこれを承認して署名捺印したものであり、又右証人尋問調書は、同様に原審裁判官が検事及び被告人の弁護人の両名立会の上被害者たる兵藤徳輔に質問し、これに対する同人の供述を裁判所書記官補が録取し同裁判官がこれを承認して署名捺印したものであることが、それぞれその書面自体よりこれを認めることができるから、これらの書面は、たとえ訴訟法上適法な検証調書又は証人尋問調書ではないにしてもすくなくとも前者は特に信用すべき情況の下に作成されたものとして刑事訴訟法第三百二十三條第三号に掲げる書面に該当するもの、後者は本件強盜の被害者の供述が特に信用すべき情況の下にされたものを録取したものとして、同法第三百二十一條第一項第三号に掲げる書面に該当するものと認めるのが相当である。従つて訴訟関係人においてこれらの書面を証拠とすることについて同意し、且つこれが適法に証拠調をなされれば、事実認定の資料たる適法な証拠となり得るものといわなければならない。

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